TOP分子標的薬とADCC活性>免疫チェックポイント阻害剤

新しいタイプの分子標的薬である免疫チェックポイント阻害薬が注目を集めています。「夢の新薬」、あるいは「初めて効果が確認された免疫治療」など、誤解を生む表現が目につきますが、まだまだ、従来型の分子標的薬の方が実用的です。たとえば、ADCC活性を作用機序とするもの、つまり、NK細胞の細胞傷害活性を高めることを作用原理とする分子標的薬が、世界標準のがん治療薬として使われ、日本でも一部の部位に保険適応になっていますが、これほど明確な免疫系のがん治療薬が普及しているにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害薬を「初めて効果が確認された」とするのは、事実誤認も甚だしいものがあります。

免疫チェックポイント阻害薬は、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)、イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)などが、商品化されています。おおよそ1割程度の確率で、死に至る重篤な自己免疫疾患が発生していますので、現時点では、適正使用ガイドラインに適合した医療施設に限定して、副作用をケアしながら、慎重に処方すべきである、との行政指導が行われています。一部の診療所などが、医師個人輸入により、免疫チェックポイント阻害薬を処方しているようですが、今後は厳しく規制される見込みです。

ANK療法実施医療機関に対しては、ANK療法提供計画を審査する認定再生医療等委員会より、免疫チェックポイント阻害薬の保険適応外の処方は推奨しないとの意見がでています。

副作用の問題の他に、高額な費用がかかるということもありますが、そもそも、免疫チェックポイント阻害薬は、悪性黒色腫に対して、概ね3割程度、効果が見られ(延命効果です、治るわけではありません)、非小細胞肺がんで、1~2割程度の延命効果、他、腎がんなどを除くと、ほとんどの部位で、効果が見られません。効果が期待できそうな部位は概ね保険適応になり、保険適応外の部位は、効果を期待できないのですから、自由診療で処方してはいけない、と考えるのが筋です。投与量を減らせば安全である、とする主張もあるようですが、実際に、投与量を減らすことで安全になるかどうかは確認されていません。逆に、投与量を減らせば、効果は減じることは確認されています。

なお、保険診療機関で免疫チェックポイント阻害薬を処方されている患者さんに、自由診療で免疫細胞療法を実施することに関しては(混合診療規制により同一医療機関で同一患者の同一疾病の治療として保険診療と自由診療の両方を実施することができませんので、各々異なる医療機関で実施する必要があります)、厚生労働省より安全性が確認されていないとの注意喚起が発布されています。これは免疫チェックポイント阻害薬処方後、T細胞系の免疫細胞療法を受診された患者さんが心筋炎で亡くなられた例を重くみた措置です。その後、免疫チェックポイント阻害薬そのものに心筋炎発症による死亡リスクが存在することが確認されたこと、またANK療法はT細胞系の治療とは全く異なることから、免疫チェックポイント阻害薬(保険診療機関で実施)とANK療法(自由診療)の併用について併用することによるリスクの発生が高いとは考えられませんが、免疫チェックポイント阻害薬自体に重篤な副作用の発生リスクがあることを十分認識しておくことが重要です。

トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)など、従来からある分子標的薬は、NK細胞の傷害活性を高めるADCC活性を作用機序とするから、ということもあります。加えて、薬の標的となるHER2たんぱく質などが、部位にはあまり関係なく、ほとんどの固形がんに認められることから、保険適応範囲に限らず、保険適応外処方でも、効果を期待できるため、自由診療での処方を検討するのです。

免疫チェックポイントというのは、いくつも知られています。現在、続々と免疫チェックポイント阻害薬や、刺激薬、また、これらに、ADCC活性(NK細胞の攻撃効率を高める作用)を付加したものなどが開発中で、承認申請中や承認待ちのものもあります。
今後の品揃えが進む中で、適切な使用法が模索され、治療の選択肢が広がることを期待しています。

*ニボルマブは、基本的にT細胞を漠然と活性化させる効果があるようですが、T細胞には、正常細胞を攻撃するものも多く含まれ、自己免疫疾患を起こすことがあり、実際に、その通りに副作用として報告されています。

1.がん細胞が発現するPD-L1が、T細胞のPD-1に結合すると、抑制信号が入り、T細胞は標的細胞を攻撃しなくなる。

そこで、薬剤でPD-L1 とPD-1の結合をブロックすると、抑制信号が抑制され、結果的に、T細胞が、標的細胞を攻撃する。 このように説明されています。

2.ところが、PD-L1は、多くの正常細胞にも発現しています。たとえば、心臓内膜や、筋肉、肺の細胞も多く発現しています。T細胞は、がん細胞と正常細胞を区別することはできません。標的信号が合っていれば、相手が、正常細胞でも攻撃します。仲間のT細胞の攻撃を防ぐ手段の一つとして、正常細胞がPD-L1を発現しているのではないか、と考えられています。 また、PD-L1を発現しないがん細胞も多く存在します。

PD-L1は、心臓内膜、筋肉、
肺などの正常細胞にも発現

3.薬剤投与により、T細胞が、PD-L1を発現する正常細胞を攻撃すると考えられます。結果として、以下のような死に至る重篤な自己免疫疾患が多数、発生しており、合計すると1割以上の発生率となります。

発症が報告されている、代表的な自己免疫疾患

  • ・筋ジストロフィー
  • ・重症筋無力症
  • ・心筋炎
  • ・間質性肺炎
  • ・I型糖尿病
  • ・DIC(播種性血管内凝固症候群)
  • ・インフュージョンリアクション

*がん細胞を正確に認識し、攻撃力が強いNK細胞を活性化させる方が理に適っているのですが、NK細胞の制御は非常に複雑であり、単純な薬剤を体内に投与するだけで、本格的に活性化させるのは容易ではありません。

*ニボルマブが効果を発揮する部位が限定されていることの説明として、悪性黒色腫や、腎がんの場合は、遺伝子変異の蓄積が他の部位のがん細胞よりも多くみられ、T細胞から見て、異常細胞と認識しやすいのではないか、そのため、他の部位のがんでは、それほど効果が期待できないのであろう、という説があります。

体内の免疫制御システムは非常に複雑です。薬剤を体内に投与することで、都合よく、がん細胞を攻撃する免疫細胞だけを活性化できればいいのですが、正常細胞を攻撃する余計なT細胞まで目覚めさせてしまうなど、そう簡単にはいかないのが現実です。

免疫細胞療法は、複雑な免疫制御システムの影響が及ばない体の外に、一度、免疫細胞を取り出し、体内よりはるかに単純で、「見えやすい」環境下で、より確実に、がん細胞を傷害する免疫細胞の活性化や増殖を狙うものです。
NK細胞の場合は、増殖が遅いため、数をそろえるためには、体内から大量(血液数リットル相当)に採り出す必要があり、野生型のまま活性化し、増殖させれば、あとは本来の機能通りに、がん細胞を特異的に(狙い撃ちで)傷害することが期待できます。NK細胞は多種多様なセンサーでがん細胞と正常細胞を正確に見極める点が、正常細胞を攻撃し、自己免疫疾患を招くリスクのあるT細胞とは大きく異なるポイントです。
T細胞の場合は、増殖力は旺盛なのですが、体内のがん細胞を傷害するキラーT細胞(CTL)は、ほんのごく一部に過ぎないため、ANK療法実施医療機関では、患者体内から取り出された腫瘍細胞を実際に攻撃するCTLを選択的に大量増殖させて治療に用いています。
様々な新薬が開発されることを期待していますが、免疫細胞療法を行うには、それだけの科学的な根拠があるのです。