「NK細胞」といっても、活性を高めて、数を揃えないと戦力になりません
免疫細胞療法において、がんと闘うには、
がん細胞を傷害する能力が高い細胞を用いる ⇒ NK細胞を用いる
がん細胞を攻撃する細胞の活性を高める ⇒ 体の外で強い刺激を加える
十分な数を揃える ⇒ たくさん採取する、あるいは増殖させる
以上が、戦力を揃えるのに必要なことになります。
そして、活性の高いNK細胞を大量に体内に戻すと、直接、がん細胞を傷害しながら、体内の活性が低いNK細胞に強い免疫刺激をかけます。この免疫刺激の結果として、熱が出ます。
免疫細胞への抑制信号をブロックすることで、結果的に免疫細胞を活性化させるとする免疫チェックポイント阻害薬が話題になっていますが、残念ながら、複雑な免疫抑制信号のごく一部に影響するだけで、がんと闘う主役であるNK細胞はそれほど活性化されません。腫瘍免疫(がん免疫)を本格的に活性化するには、単純な薬剤では無理があり、免疫細胞自身による強い免疫刺激が必須です。そのため、免疫刺激の結果として、発熱などの免疫反応は避けられません。
米国国立衛生研究所NIHが実施したLAK療法の培養イメージは以下のようになります。
(実際には、採取毎に、細胞数は相当にバラつきます。あくまでイメージです)
NK細胞をがん治療として実用化するために
高活性NK細胞は増殖させると、自爆を起こしやすいため米国LAK療法では、3日間かけて、血液を体外循環させ、NK細胞を含むリンパ球を分離採取しました。
そうして、十分なNK細胞数を確保し、これを一気に体内に投与した結果、顕著な効果はありましたが、副反応も甚大でした。
大まかなイメージとして、数十億個の活性化されたNK細胞を短期間の間に、体内に戻したと考えられます。
それでも、大きな腫瘍が壊死を起こし、大量に体液に溶出したカリウムによる心停止等のリスクがあり、ICU集中治療室を占拠して治療が行われました。
ANK療法では、5~8リットルもの血液を体外循環させ、大量に分離したリンパ球の中から、NK細胞だけを選択的に増殖させます。
1クールとして、米国法よりもNK細胞数、NK活性ともに上回る戦力を整えるのが基本です。
これを一度に体内に戻すと、大きな腫瘍が壊死を起こして危険であると想定され、週2回を原則に、12回に分割投与することで、強い治療強度と、安全性の両立を実現します。
(培養毎に、実際の細胞数は大きくバラつきます)
一般的な培養条件で、2週間、培養した場合
20ml採血により得られるNK細胞は数十万個程度です。
培養開始時の細胞数は、米国法の数千分の1以下です。
2週間の培養後、数百万個のNK細胞と、数十億個のT細胞が混じった状態になります。(培養毎に、実際の細胞数は大きくバラつきます)
NK細胞の増殖スピードの上限は決まっています。NK細胞を異常化させずに、増殖スピードを限界以上に速くすることはできません。
米国LAK療法や、ANK療法を、一般的な培養法と同じスケールで細胞数を表わすと、余りにも桁が違います。ANK療法と一般的な培養法を、少し違う絵で見てみましょう。
(あくまで、大まかなイメージです。現実の細胞数は、培養毎に、大きくバラつきます)
ANK療法では最大で8000ml相当の血液を採取します。
培養開始時の細胞数はこのようになります。
(T細胞は多すぎるので省略しました)
次に培養後をみていきましょう。
一般的な免疫細胞療法では
①NK細胞の活性はそれほど上がりません。
②NK細胞は数倍~10倍程度増殖
③T細胞が爆発的に増殖
2週間の間に、T細胞が爆発的に増殖し、数十億個程度から100億個くらいに増えます。T細胞もリンパ球の一種ですから、リンパ球の総数だけでみれば、米国法に近い細胞数に達すると見えてしまいます。ところが、肝心なのは、NK細胞の活性と数であって、T細胞を漠然と増殖させてもほとんどがん細胞を攻撃しません。
NK細胞はT細胞よりはるかに増殖が遅く、特に、がん患者さんから採りだしたNK細胞は、すぐには増殖をはじめないので、2週間培養でも、数倍~10倍程度にしか増殖しません。20ml採血の場合、採取されたNK細胞は数十万個程度、培養後、数百万個程度に増えているだけです。 これをNK細胞療法とか、活性化NK、あるいはT細胞系の名前、更には、名前だけでは中身がよくわからない名称などで呼ばれておりますが、少量採血、2週間培養、点滴しても発熱などの免疫副反応がない、ここは共通です。
なお、培養期間を延ばしても、がん患者さんから採りだしたNK細胞は、寿命(細胞の寿命は生きている時間ではなく、あと何回、細胞分裂を繰り返す能力が残っているか)を使っており、100倍も増やせば、ほぼ限界です。(健常者のNK細胞は、寿命がもっと残っており、1000倍以上に増殖可能です) そのため、100億個レベルのNK細胞をそろえるには、血液の延べ数量として、数リットル相当からNK細胞を採取する必要があり、20~50ml程度の採血では、限界までNK細胞を増殖させたとしても、それが正常細胞である限り、全く話にならない数しかそろえることがでず、点滴しても、戦力が弱すぎるため、免疫副反応はほぼみられません。
ANK療法では、NK細胞の活性を高めて、大集団になります。
T細胞はそれほど増殖しません。
更に、もっともっと数を増やしていきます。
これがANK療法=高活性化NK細胞の大集団です。
ANK療法では、米国法より一桁少ない血液(5~8リットル)を体外循環させ、数億個レベルのNK細胞を集め、この時点で、一般的な免疫細胞療法とは圧倒的な細胞数の違いがあります。そこから培養により、活性を高め、数も1クールとして100億個レベルを目標に増殖させます。米国法より、NK細胞の活性でも、細胞数でも上回るように設計されています。 なお、米国法では、NK細胞の活性が不十分なため、免疫刺激物質であるインターロイキン2も同時に患者さん体内へ大量投与されました。ANK療法の場合、培養NK細胞の活性が米国法より高いため、体内で培養細胞自体が大量の免疫刺激物質を放出します。その結果として、高熱がでますが、免疫刺激物質インターロイキン2の投与は行う必要がなく、十分、洗浄した細胞だけを体内に戻します。
なお、樹状細胞療法を実施する場合は、ANK療法と同じ装置を用い、数リットル相当の血液を体外循環させますが、これは、樹状細胞が血液中にほとんどいないため、大量の細胞を集める必要があるからに過ぎません。ANK療法として数リットルもの血液を体外循環させるのとは全く意味が違います。
さて、1cm大の大きさの腫瘍の中には、おおよそ10億個のがん細胞がいます。
一般的な免疫細胞療法におけるNK細胞と、1cm大の腫瘍中のがん細胞の戦力比はこうなります。
ANK療法における点滴一回のNK細胞と、1cm大の腫瘍中のがん細胞の戦力比はこうなります。
高活性NK細胞を10億個そろえれば、免疫抑制がかからない体外であれば、1cm大の腫瘍中のがん細胞を圧倒する戦力です。実際には、患者さんの体内は、強い免疫抑制がかかっていますので、1回の点滴だけで、1cm大の腫瘍が消えることはありません。
また、点滴1回のNK細胞数=10億個というのは、安全管理上の上限数です。これ以上の数の高活性NK細胞を一度に投与すると、治療強度が強過ぎ、安全性の確保が難しくなります。健常者の血液であれば、1回分として、10億個そろえることができます。ところが、がん患者さんの場合、細胞を採取した時点で、抗がん剤によりNK細胞がダメージを受けているなど、条件が悪いと、点滴1回分として、10億個のNK細胞を揃えるのは難しく、10億個を目標に、数億個のNK細胞を投入というのが現実的です。
活性について、実験データで見てみましょう。
これは、内部実験データです。
私どもは米国法でも、国内で一般に実施される免疫細胞療法であっても、すべて培養できますので、内部で比較したものです。
改めて、活性の高さを色の濃さ、細胞数を同じスケールで表すと、ANK療法と一般的な条件で培養されたものとは、これ位の違いのイメージになります。