NK細胞の培養の難しさは、強い刺激を加えることで、活性を高めないと、治療の役に立たないのですが、活性を高めたNK細胞は、がん細胞を攻撃する力(※1)が強いがゆえに、自爆をしやすくなることです(※2)。そのため、非常に繊細な培養技術が要求されます。
- (※1)細胞内にがん細胞を攻撃する爆弾袋のような毒物が詰まった小胞体を大量に抱え込みます。
- (※2)細胞が増殖し、二つの細胞に分かれる際に、細胞内の爆弾袋が千切れて、内部の毒が自分に当たってしまいます。
また、NK細胞は、大量にそろえる必要がありますが、増殖スピードが遅いという問題があります。加えて、血液から採取すると、常に一緒にT細胞が存在し、T細胞の増殖スピードは、NK細胞よりも圧倒的に速いのです。培養時の免疫刺激を弱くすれば、NK細胞の自爆を招くことなく、NK細胞の数を増やすことはできます。ところが、一般的な培養条件では、T細胞が爆発的に増殖し、培養器内は、ほとんどT細胞になってしまいます。
NK細胞は増殖が遅いため、大量にそろえるには、大量に採取する必要があります。
一方、NK細胞と一緒に存在するT細胞の増殖スピードは速く、爆発的に増殖します。
血液から採取されたリンパ球集団を、一般的な培養技術で培養するとどうなるでしょうか。NK細胞とT細胞以外の細胞もいますが、それらは無視します。実際には、採取する毎に細胞の構成比が異なり、増殖の様子も相当なバラつきがあります。あくまで、イメージとしてお考えください。
がん患者さんの血液中では、NK細胞の比率が健常者よりもかなり低下しており、血液を採取した時点では、T細胞はNK細胞より一桁、数が多いです。
その後のNK細胞とT細胞の増殖イメージをみていきましょう。
3日後には、T細胞は早くも増殖を始めていますが、NK細胞数はほとんど変化がありません。
その後、T細胞は、1日毎に倍々ゲームのようなペースで増殖しますが、NK細胞は中々、数が増えません。
10日、2週間経つと、NK細胞もやっと数倍程度、増殖していますが、この間、T細胞は、数千倍増殖しています。
がん患者さんの血液20mlを採血し、赤血球などを除くと、実際に回収できるNK細胞は、なかなか、100万個までいきません。(実際の細胞数は、採血毎に相当のバラつきがあります)数十万個程度、回収されたNK細胞が、2週間培養によって、概ね数百万個に増殖する、というのが一般的なイメージです。細胞の増殖スピードの上限は決まっていますので、どのような培養技術を用いても、細胞が正常である限り、限界を超えて増殖することはありません。一方、T細胞は、2週間の培養後、数十億個から100億個レベルに増殖することがあります。ただし、死滅するT細胞も増えるため、これ以上、培養しても、増殖ペースは落ち、逆に死滅する細胞が増えていきます。
米国国立衛生研究所NIHがLAK療法の臨床試験を実施した際には、数十リットル(数万ミリリットル)の血液から、数十億個のNK細胞を集めておき、強い免疫刺激を加えることで、NK細胞の活性を高め、本格的な増殖が始まる前に(培養期間は3日以内)、体内に培養細胞を戻しました。この手法であれば、T細胞も、それほど爆発的に増殖する前に培養を終えていることになります。一方、一般的な培養条件では、採血量が20mlほどでも、2週間培養により、リンパ球の総数(NK細胞もT細胞もリンパ球の一種です)としては、米国LAK療法に迫るレベルまで増えることになります。但し、培養された細胞の大半はT細胞であり、がん細胞を傷害する能力はほとんどありません。