樹状細胞療法と呼ばれる試みがあります。がん患者さんの体内の樹状細胞を採りだすことは、現実的には無理です。樹状細胞は、血液の中にはほとんどいないからです。
そこで、血液中の単球を分離し、薬剤で、樹状細胞に分化させてから、体内に戻します。
樹状細胞は、あまり増殖しませんので、数リットルの血液から、大量の単球を採取します。採取に用いる装置は、ANK療法と基本的に同じものです。
本当に、がん細胞の情報を伝えられるのか
樹状細胞療法は、体内のキラーT細胞に、がんの情報を与えて、特定のがん細胞を攻撃するCTLに誘導する、としていますが、「そうなったら、がん治療に使えるかもしれない」、という「仮定」に過ぎません。
樹状細胞療法、単独投与では「効果なし」
樹状細胞療法は、米国を中心に治験が繰り返され、日本国内でも米国ベンチャー企業と提携した国内医薬品メーカーがスポンサーとなって、治験を実施したこともあります。それらの結果、樹状細胞を単独で、がん患者さんの体内に戻しても、治療効果や、発熱等の免疫副反応もほとんどみられないことが明らかになっています。国内医薬品メーカーも、あまりにも何の反応もみられなかったため、「確認申請」を取り下げ、樹状細胞単独での投与法は諦めました。
米国政府承認を取得、ただし中身はNK細胞
米国デンドレオン社(Dendreon Corporation)は、1000億円以上の資金を投じ、樹状細胞療法「sipuleucel-T」の治験を繰り返しました。当初は、まったく効果がみられませんでした。
この治療法の場合、樹状細胞を体内に戻す前に、前立腺細胞に特徴的に発現するPAPという物質の誘導体で樹状細胞を刺激するものでした。(PAPは正常な前立腺細胞にも、前立腺がん細胞にも、どちらにも存在します) 最後の治験において、NK細胞などを混合したところ、若干の延命効果が見られ、この一回の治験を根拠として、米国政府の承認を取得します。ところが、日本のメディアは、がん細胞を傷害するNK細胞を加えた場合だけ奏効した事実に触れずに、樹状細胞療法「Provenge(プロベンジ;商品名)」が、米国政府承認取得と報じてしまいました。
イメージが先行
Provenge の米国政府承認が2010年、翌年2011年に樹状細胞の研究者がノーベル賞受賞と大きなニュースが続き、樹状細胞療法がある種のブームのようにマスメディアを賑わしました。実態は、Provengeは、NK細胞を混ぜた時しか奏効せず、またノーベル賞の授賞対象となった研究は、感染症における樹状細胞の機能解明であって、がん細胞は全く関係ないものです。実態を伴わないまま、樹状細胞療法が、がん治療として有効であることが確認されたかの如きイメージが膨らんでしまった、ということです。
それでも研究者は諦めない
その後も、樹状細胞を、がん治療に応用する研究は続いています。
本当にゴールはあるのか
がん細胞を認識し、攻撃する能力を生まれながらに備えるNK細胞を、そのまま、がん治療に用いる治療法の開発は、「ゴールがあることは分かっているが、具体的にどうすればいいのか」という「パスのつなぎ方」の問題でした。
ところが、感染症免疫の担い手である樹状細胞を、「専門外」のがん治療に応用するのは、「答えがないのかもしれない」ことへの挑戦です。とりあえずパスを回してはいるものの、どこかにゴールがある保証もなく、ゴールの方向も見えません。実際、越えるべきハードルがいくつもあります。
現時点では、まだまだ基礎研究段階
樹状細胞の培養は、容易であり、当然、私どもも培養可能です。ところが、ある特殊な用途以外、実用に供するレベルではない、と考え、医療機関向けサービスメニューには加えておりません。
各研究機関で治療方法の開発努力が盛んに行われており、メディアでの発表も多いのですが、それだけまだまだ、初期の研究段階を脱していない、ということです。
ウイルスとがん細胞は違う
樹状細胞療法が目指しているのは、がん細胞を傷害するCTLの誘導です。発想の元になった科学的に確認された事実として、樹状細胞が、ウイルスの異常増殖を専用センサーで捉えれば、そのウイルスに特徴的な信号に反応するCTLを活性化し、大量増殖を促します。
こうして、実際に、ウイルス感染細胞を傷害するCTLが戦力を増強します。これはあくまで、相手がウイルスであり、樹状細胞のセンサーが捉えることができる標的である場合のことです。
がん細胞を傷害するCTLは、事情が異なります。
事実上の無償で提供されるCTL療法とどちらが得か
私どもは、樹状細胞を用いずに、患者さん体内から採りだされたがん細胞を、実際に傷害するCTLを大量増殖するCTL療法を、提携医療機関に提供しています。
CTL療法は、培養費用をいただいておりませんので、患者さんにとっては、ほとんど費用がかからず受診できます。但し、CTLは、単独で投与しても、すぐに体内の免疫抑制によって眠らされてしまうことが確認されており、免疫刺激が強いANK療法を一定以上、受診される方で、他にもいくつかの条件をクリアされた方に限って、提供されています。
樹状細胞療法の場合は、がん細胞を傷害することを確認できないのですが、CTL療法の場合、実際に、標的がん細胞を傷害したCTLを選択的に大量増殖させています。
CTLは自分でがん細胞をみつける
では、CTLは、樹状細胞なしに、どうやって、標的がん細胞を認識するのでしょうか。実は、元々、CTLは、樹状細胞がなくても、標的細胞を認識できるのです。感染症の場合は、樹状細胞の発する「警報」が、一層の動員をかけていく、アクセルになる、ということです。標的がん細胞と、膨大な数のT細胞集団を活性化しながら、一緒に培養すると、標的がん細胞と型が合うCTLが自動的に攻撃を開始します。そして、型が合うCTLだけを選択的に増殖させることができます。
詳しくは、CTL療法のページをご覧ください。